『井上家住宅』〜空間の妙【倉敷美観地区】最古の町屋建築とは
岡山・倉敷美観地区の本町通りに面した、国指定重要文化財「井上家住宅」。
主屋は江戸時代の1721年(享保6年)に建てられた、美観地区で最古の町屋建築です。
2022年(令和4年)に約10年にわたる保存修理工事を終え、2023年3月から一般公開されました。
土扉のある「倉敷窓」や、はね上げて開ける建具「蔀戸(しとみど)・摺揚戸(すりあげど)」など、井上家ならではの見どころも。
300年の時を経て蘇った技のある造りから、江戸時代後期の生活のようすを感じることができます。
日本文化として受け継がれる「間」と「余白」がもつ空間美を紹介します。
井上家住宅について
かつて江戸幕府の直轄領「天領」として発展した倉敷。
新田開発に従事し、村政を担う豪商「古禄(ころく)」十三軒の一つとして、倉敷のまちに現存する唯一の古禄派住宅です。
倉敷川畔重要伝統的建造物群保存地区のなか、代表的な大型町屋として「主屋・三階蔵・井戸蔵・土堀・家相図・敷地」が国指定重要文化財(2002)に指定されました。
建築から読み解く、井上家の歴史
六代目当主・安兵衛が住宅の基礎を築いた時代から300年。
主屋の老朽化に伴い全解体され、天保年間(1830〜1844年)の姿に復元されました。
現代技術を用いてコンクリート基礎の設置や鉄筋による補強も行われています。
日本の文化・伝統を語る日本遺産の構成文化財でもある井上家住宅。
解体時に調査された壁や屋根、再活用できる部材をいかしながら当時の工法によって蘇った姿に深い趣を感じました。
井上家住宅の見どころ
「お土公(どくう)さま」と「備前焼の水がめ」
儀式用の竃(かまど)に、火と竈の神様が祀られています。
台所には発掘調査をもとに、5連の竈と洗い場などが忠実に復元されました。
“本能寺の変”の翌年にあたる、1583(天正11年)の銘が刻まれた「備前焼の水がめ」。
かつての歴史のながれに思いを巡らすのも一興です。
「網代(あじろ)天井」
客間にある美しい細工が施された網代織りの天井。棹縁(さおぶち)天井と合わせ、格式の高さを演出しています。
「蔀戸(しとみど)・摺揚戸(すりあげど)」
本町通りに面した店の間。修繕により吊り上げて開閉を行う蔀戸も再現。
隠された魅力の数々
受け継がれる『倉敷』の文化と心
ライフスタイルは時代とともに変化してきました。
“侘び寂び”に象徴される日本の美意識は、建築のみならず、私たちの心にも影響を与えます。
空間と時間を一体とする「間」をとることは、相手を思いやる気持ちや、おもてなしへ。
ゆとりのある暮らしに「余白」がもつ想像力の美しさを。
受け継がれる文化の一片を『井上家住宅』で探してみてください。
(文・写真/悠貴)
井上家住宅
住所:岡山県倉敷市本町1-36
営業時間:10時~17時(入館 16時30分まで)
休館日:月曜日・年末年始
入館料:大人一般500円、小中学生300円、未就学児無料
公式ホームページ:井上家住宅
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。