「アコルドコーヒー」インタビュー~倉敷市玉島、おいしいコーヒーのある心地よい空間づくり
新倉敷駅から車で約5分。倉敷市玉島の田園風景に溶け込む場所に、スペシャルティコーヒーを味わえるコーヒー専門店があります。
イタリア語で「調和」を意味する「accordo(アッコルド)」を店名にもつ、「acordo coffee(アコルドコーヒー)」。
エスプレッソにスチームミルクを合わせて描くラテアートやこだわりのコーヒー以外にも、特製カレーやイタリアのパニーニ、自家製スイーツなどのメニューも充実。
開放感のある店内には落ち着いた音色のジャズが流れ、居心地の良い空間が広がります。
2019年2月のオープンから、5周年を迎えた「アコルドコーヒー」の知られざる魅力に迫ります。
目次
人生を変えた。ラテアートとの出会い
もともとこの場所は、農家であった祖父母がぶどうを育てていました。
ゆかりのある土地で、とてものんびりしていていいところだと思って、長く続けるならここで始めようと思いました。
近くに新幹線が通る駅や高速のインターチェンジなどもあり、利便性はとても良いと思います。
最近では作陽学園高等学校などもでき、ますます街が元気になっていて嬉しいです。
でも初めは、田園風景が広がる何もないところだったので、周りには反対されました(笑)。
実をいうと、僕は会社員を辞める32歳まで、コーヒーにまったく興味がなくて、淹れ方すら知りませんでした。
大学を卒業する頃になっても、とくにやりたいことが見つけられなくて。
それでも社会に出て何かしないといけないなって思った時に、高校生の時から始めた楽器のことが頭の片隅にありました。
ぼんやりとですが、音楽関連の仕事をしながら食べていけたらと考えるようになり、大学卒業後は某楽器店に6年ほど勤めました。
その後、地元企業に就職したのですが、30歳ごろに、このままでいいのだろうかと人生に対する焦燥感に駆られて。今振り返ると、しっかりと自分自身を見つめなおした時期だったと思います。
その時期に『島根県にバリスタの世界大会で準優勝した有名なお店がある』というのを聞いて、行ったことがキッカケでした。
僕自身それまでコーヒーについてまったく何も知らなかったのですが、ここでいただいたカプチーノが衝撃的だったんです。
ラテアートを生まれて初めて見たのですが、見た目も味も素晴らしくて。
やりたいことが何なのか、それまではずっとわからなかったんです。けど『地元にこんなお店を作りたい』という思いだけで、32歳の時に会社員を辞めました。
そしてすぐに、香川県にあるコーヒー専門店で約3年間お世話になりました。
修行先のマスターも同じ境遇のような方だったので、厳しかったのですが、とても良くしてくれて。
あとたまたまだったのですが、修行先のマスターは僕が衝撃を受けた島根のお店で修行されてからお店をオープンされた方で、そこにも何かの縁を感じました。
コーヒーに関して素人だった自分は、修行先ではとにかくなんでもやりました。
いろんなことをやらせていただくなかで、だんだんと自分の目指す方向性が固まってきて。
3年間学んだなかで気持ちが変わって、コーヒーに対しての向き合いかたも変化してきました。
ただの好きとは別に、こうしたいと想いが見えるようなこと、コーヒーを通じて社会をよくできるかも、ということを感じられたら、長く続けられるような気がしていました。
修行時代も自分ならこうすれば良いお店が作れるのではと思うと、どんどんアイデアが湧いてくるんです。
自分自身がコーヒーに対して何も知らないところから始まったからこそ、できることがあるのだと感じました。
香川で修行して3年、岡山へ戻ってきて約5年、開業に向けての準備を経て、2019年2月に「アコルドコーヒー」をオープンすることができました。
コーヒーだけじゃない全世代型のお店を目指して
コーヒーのことが詳しくない自分でも、入りやすいお店が少ないと感じるところから始まっています。
コーヒーに詳しくなくても、フードやスイーツなどがあれば来店のハードルをより下げることができると考えていたので、そういったメニュー作りは開業前から進めていました。
あと当店のコンセプトの一つに「全世代型コーヒー専門店」という理念があります。
例えばご家族で来店された際に、娘さんがスムージー、お父さんがホットコーヒー、おばあちゃんがラテのアートを楽しみに注文してくれたり。
コーヒー専門店と聞くと、一部の珈琲愛好家の方や、こだわりのコーヒーを楽しむ方に向けた専門性の高いお店だと思われています。
もちろんそういった一面もありますが、スペシャルティコーヒーというこだわりのコーヒーを軸に、より多くの層の方に楽しんでいただくことを主眼においています。
プロとしてバリスタ&ロースター、カッパーとしての技術を磨きながらも、つねにラテアートやスイーツなどの自社開発商品を通じて、全世代に関わりのある、みんながより楽しめるコーヒー専門店を目指しています。
隔てなくどの世代も楽しめる、そういった「全世代型コーヒー店」を作ろう、と考えました。
毎週いつもラテを注文してくださるお客様がいて、「ラテアートを見ると、明日から仕事をがんばれます」と言われたことがあります。
そう言っていただけるのはとても嬉しいですし、僕自身もさらにがんばろうと元気をいただいています。
あと娘さんのご紹介で、ご両親がご来店くださったり、またその逆もあったりと。
家族内で「アコルドコーヒーのカレーを食べに行こう」とか、「この季節はどんなラテアートを描いてくれるのかな」など、話題に上がるということをお聞きすると、本当に嬉しいです。
ご家族みんなが一緒に「アコルドコーヒー」へ足を運んでくれる。そういうことが連鎖的に起こっていることに感動しました。
そうですね。そういったこともあり、当店では「フルサービス店」という営業形態をとっています。
近年、人口減少などにより働き手不足が社会問題の一つとなっていて。
個人経営のカフェなどは、できるだけ人手が少なくても運営できるように、「前会計、水セルフ」といった形態のお店が増えています。
『温故知新』という言葉がありますが、現代においては、モノやサービスが多種多様になり、その移り変わるスピードも速い。
だからこそあえて古いものを淘汰するだけでなく、良い部分は残していこうと考えています。
誰にでもわかりやすく、安心して来店していただけるお店づくりに、この要素は欠かせません。
時代と逆行していますが、あえてお客様との接点を増やし、常に相手の顔の見えるあたたかみのある経営を目指しています。
アーティストと観客のような関係性
縁あって20代で音楽に関わらせていただいて、30代で珈琲に巡り合って。40歳になって開業する時に、自分の人生に強く影響を与えてくれた2つの要素を掛け合わせてできたのが「アコルドコーヒー 」です。
僕にとってコーヒーと音楽は、どちらも切っても切り離せない大切なものです。
音楽も聴き手がいてくれるからこそ、良い作品をもっと生み出そうと思えるのと同じで、コーヒーもそういった意味では同じではないでしょうか。
自分の淹れたコーヒーをおいしいと感じ、召し上がってくださる方がいるからこそ、もっと良いものを提供したいと思えるので。
そういった意味では、「奏者と聴き手」のように「作り手とお客様」といった関係性が、音楽、珈琲、両方に共通していることではないかと思っています。
店内に流れるBGMやコーヒーの香りを感じながら、お客様から居心地の良いお店だね、と言っていただけるのは、こういった思いも伝わってくれているのかなと嬉しく思っています。
縁のあるもの。地元産ならではの誇り
店舗の設計をしていく中で、お店のコンセプトを「和とイタリアの融合」とすることに決めました。
京都の町家に見られるような「うなぎの寝床」のような、地窓があり奥行きのある作りになっています。
あまり知られていませんが、テオリさんの家具は県外でも多く採用されていて、「TENSION(テンション)」という椅子を目にしたことがありました。
店舗のある玉島にほど近い真備町の特産である、竹の集成材を使用しているところや、和とも洋ともとれるデザイン性が店舗には欠かせないと思い、採用の決め手になりました。
開業が決まった当初、パニーニで使用するパンを真備町にある「パンポルト」さんにお願いしようと思っていました。
しかし2018年7月の西日本豪雨で被災され、店舗での営業をされてないことを知って、断念することに。
オープンの2月に間に合うように、他のパン屋さんと話を進めていたのですが、直前になり急遽用意ができない状態になってしまって。
それがオープンする10日前ぐらいの話です(笑)。
もうどうにもこうにもならない状態になり、色々と調べていく中で、人づてにパンポルトさんがコンテナで営業をされているということを知りました。
パンポルトさんが復興に向けて大変な時に、しかもこちらの都合でギリギリでのお願いにも関わらず、快くお受けしていただいたことに感謝しかありません。
今は西日本豪雨から約6年近く経ち、パンポルトさんも店舗での営業を再開されています。
当店で召し上がられたパニーニのパンがおいしかったということがキッカケで、パンポルトさんのファンになってくださるお客様も多くいらっしゃいます。
そういった相乗効果で、真備町へ足を運んでいただけるということがとても嬉しいです。
いつもおいしいパンを作ってくださるパンポルトさん。お願いしてよかったなと感じています。
挑戦を続ける。コーヒーのカッピング競技会
2016年ごろから不定期で出場しているこの2つの大会ですが、きっかけはコーヒーにおいて一番重要なスキルは『コーヒーの味覚を正確に判断できること』だと感じたからです。
個人的な考えですが、自家焙煎店において大切なことは、7割が珈琲原料の仕入れ、残りの2割が焙煎技術、1割が抽出方法だと思っています。
コーヒーのサンプルカッピングのときに、自分の好き嫌いではなく、客観的に点数をつけ、一定水準のコーヒーになっているかを判断しなければなりません。
その方法として「カッピング」という方法を用います。
カッピングはコーヒーを飲みません。カッピングスプーンですくったコーヒーを、口で吸って、舌に霧吹き状に当て吐き出し、香り、後味、酸味、質感、甘さ、カップのきれいさなどを総合的に判断します。
もちろん焙煎や抽出も大切ですが、仕入れの際に美味しいコーヒーを見極められるかどうかで、お客様により安心してお召し上がりいただけるコーヒーを提供できると考えています。
毎年、秋頃に東京ビッグサイトで行われるアジア最大のコーヒーイベント「SCAJ2022」で開催された「コーヒーマイスター第8回利きコーヒー選手権」にて、ベスト4まで進出することができました。
大会である以上はもちろん順位なども気にはなりますが、それよりも自分で掲げた目標値を意識して出場しています。
お店でカップするよりも、大会へ出ることにより、今後の課題が見えるところが良いところですね。
今後はバリスタ、ロースターとしてだけではなく、カッパーとしてもレベルを上げれるよう、日々鍛錬を積み重ねています。
いつも感謝を。できないを言わない
会社員時代、人生の目標を見失ってどん底まで落ちた時期があったからこそ、「できない」を言わないと決めました。
もちろん、自分の想いをカタチにすることは、簡単なことではありません。
しかしコーヒーとの出会いによって、大変なことや困難なことも、自分なりに楽しみながら取り組めるようになったのではないかと思います。
それはひとえに、こうなりたいと思う自分のことを応援してくれた修行先のマスターや、支えてくれる家族や友人、いつも足を運んでくださるお客様やお店に携わっていただいている業者さんのおかげでしかありません。
僕たちは新型コロナウイルスが世界で流行する前にお店を始めました。
本当に苦しい時期もありましたが、あの時の経験があるからこそ、あらためて人との繋がりの大切さを実感しています。
そして支えられているからこそ、それに応えたいという思いがモチベーションにつながっています。
コーヒー専門店は見た目以上に地味な業種です。
焙煎やカッピングは、どちらかといえばコーヒーの中でも裏方の仕事です。
ラテアートや抽出などは表方の仕事ですが、裏方の仕事がきちんと出来ていない限り成立しません。
今後はバリスタ、ロースター、カッパーとしての技術を磨きながら、今以上においしいと思えるコーヒーを提供していきたいです。
そしてご来店くださるお客様に「アコルドコーヒーがあって良かった」と言っていただけるようなお店づくりができればと思います。
インタビューを終えて
別け隔てなく受け入れる心と、常に周りへの配慮を忘れないこと。
居心地の良い空間を考え、気持ちの良い接客をさりげなく提供してくれます。
そんな想いの詰まったおいしいコーヒーと音楽を求めて、「アコルドコーヒー」へ。
絶え間なく続いていく暮らしに彩りを添えてくれるのではないでしょうか。
(文/まつこ 編集・写真/悠貴)
acordo coffee(アコルドコーヒー)
住所:岡山県倉敷市玉島八島2055-1
営業時間:9時~18時30分(ラストオーダー18時)
定休日:火曜日(※火曜日が祝日の場合は、翌水曜日が定休日)
電話番号:086-451-4569
▼ホームページ
アコルドコーヒー | 岡山県倉敷市の自家焙煎スペシャルティコーヒー
▼Instagram(インスタグラム)
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