「犬島」夏の記録【岡山】~瀬戸内国際芸術祭2022
岡山市唯一の有人島「犬島(いぬじま)」。
岡山市東部に位置する宝伝(ほうでん)の沖約3kmに浮かぶ、小さな島です。
銅の製錬業や採石業が最盛期だった頃は約5,000人、現在(2022年)はおよそ40人が暮らしています。
近年、アートの島として世界からも注目されている犬島。
近代化産業遺産である銅精錬所跡を美術館として再生・保存した「犬島精錬所美術館」を中心とした、豊かな自然と調和したアート作品は、人びとの心を惹きつけてやみません。
2022年の夏。おだやかな瀬戸内海に浮かぶ、日常と非日常が融合した犬島へ訪れたようすをお届けします。
目次
瀬戸内国際芸術祭とは
2010年から始まり、3年に1度開催されている「瀬戸内国際芸術祭」。
「瀬戸芸(せとげい)」の愛称で親しまれている芸術祭は、「海の復権」をテーマとした現代アートの祭典です。
会場は、瀬戸内海に浮かぶ12の島と宇野港(岡山県)、高松港(香川県)。
開催期間は、春・夏・秋の3会期に分けて行われています。
▼第5回目となる「瀬戸内国際芸術祭2022」の開催日程
季節 | 期間 | 日数 |
春 | 2022年4月14日(木)~5月18日(水) | 35日間 |
夏 | 2022年8月5日(金)~9月4日(日) | 31日間 |
秋 | 2022年9月29日(木)~11月6日(日) | 39日間 |
「島やそこで暮らす人々が主役であり、アートは島の魅力を引き出すもの」
そのコンセプトのもとに開催されています。
犬島へのアクセス
岡山駅と西大寺駅から直通バスが出ている宝伝港。
料金は、大人400円、子ども200円。
宝伝発 | 犬島着 | |
6:40 | 6:50 | |
8:00 | 8:10 | |
11:00 | 11:10 | |
13:00 | 13:10 | |
13:45 | 13:55 | |
15:15 | 15:25 | ※精錬所美術館休業日のみ運休 |
17:00 | 17:10 | |
18:30 | 18:40 | ※日曜運休 |
▼上り
犬島発 | 宝伝着 | |
6:55 | 7:05 | |
8:20 | 8:30 | |
11:15 | 11:25 | |
13:20 | 13:30 | |
14:00 | 14:10 | |
15:35 | 15:45 | ※精錬所美術館休業日は運休 |
17:15 | 17:25 | |
18:45 | 18:55 | ※日曜運休 |
犬島から宝伝港へは、下船時に運賃を直接支払いください。
▼宝伝港付近には、1日500円の有料駐車場も。
駐車場名 | 台数 | 利用時間 | 住所 |
岡山市営宝伝駐車場 | 35台 | 7:00~17:00 | 岡山県岡山市東区宝伝3719 |
宝伝南駐車場 | 12台 | 7:00~17:00 | 岡山県岡山市東区宝伝3673 |
犬島には自動販売機もありますが数が限られるため、飲料は必ず持参して乗船ください。
足元に注意が必要な場所もあるので、歩きやすい格好をオススメします。
石の島と呼ばれた犬島へ
2022年8月上旬、宝伝港を朝8時発の定期船で犬島へ。
犬島の港へ到着すると、すぐ左手に見える黒色のモダンな建物が「犬島チケットセンター」です。(※営業時間は9時から17時まで)
「犬島精錬所美術館」と「家プロジェクト」共通のアートチケット(2,100円)を販売しています。
瀬戸内国際芸術祭の会期中は、芸術祭の参加作品や施設を各1回鑑賞できる、デイチケット1,800円(1日に限る)のため、通常よりリーズナブルに購入可能。
カフェやオリジナルグッズを販売するミュージアムショップも併設。ロッカーもあり。
犬島は、周囲3.6Kmほどの小さな島。周遊・鑑賞時間としては約3時間が目安とのこと。
途中お昼休憩を含めてゆっくりめぐりたい場合は、約4~5時間ほど。
「犬島みかげ」と呼ばれる良質な花崗岩(かこうがん)の産出で知られていた、犬島。
▼島のあちこちにある池は、採石場の跡
犬島石の特徴は、国内産の中でも硬く石傷が少ないこと。
江戸城、大阪城、岡山城の石垣の切り出し場となっており、全国各地で犬島の石が使われています。
2022年春から公開!「INUJIMAアートランデブー」
人びとの交流のきっかけとなるような作品やイベントを展開するプロジェクト「INUJIMAアートランデブー」。
「作品を目印に待ち合わせ(ランデブー)をし、ときに休憩しながら、島を散策してほしい」というコンセプトのもとに製作されました。
盆踊りが行われる“ちびっこ広場”に設けられた「フラワーフェアリーダンサーズ」。
プロジェクトの一作目となる立体作品です。
島に咲く花がモチーフとなっており、自由に触れられるのも、この作品の特徴。
草花が妖精となってダンスしているオブジェを見ると、気分が弾みますね。続く作品の展示も待ち遠しいです。
近代化産業遺産を彩る「犬島精錬所美術館」
チケットを購入し、まずは赤レンガの煙突が目印の「犬島精錬所美術館」へ。
海沿いを歩いて約5分ほど進むと、門が見えてきました。
▼赤茶に錆びた銅の看板に哀愁を感じます。
「在るものを活かし、無いものを創る」というコンセプトのもと、2008年に開館した美術館。
1909年に建設された犬島製錬所は、煙害対策や原料輸送の利便性から島に建設されましたが、銅価格の大暴落によってわずか10年で操業を終えました。
海と緑に囲まれた大規模な精錬所跡。
緑に覆われ朽ちた廃墟を歩くと、まるで異国の古代遺跡を探検しているような錯覚に陥ります。
あちこちに白のテッポウユリが咲き乱れ、夏の精錬所美術館を彩ります。
犬島石といった島の素材、太陽や地熱などの自然エネルギーを活用し、自然に配慮した環境づくりを目指しているとのこと。
美術館内には、日本の近代化に警鐘を鳴らした小説家・三島由紀夫の作品にインスピレーションを受けたアーティスト柳幸典の作品「ヒーロー乾電池」を展示。
6つのスペースの作品を展示し、一部の空間は体感型です。(※館内は撮影禁止)
精錬所が稼働していた当時は、有毒な煙を排出し、草木を枯らしていたそう。
そして今。草花が精錬所跡に広がり、崩れ落ちたカラミレンガ。
まさに、“島の栄枯盛衰”を具現化した美術館ではないでしょうか。
日常の風景と現代アートの共演。犬島「家プロジェクト」
「日常の中の美しい風景や作品の向こうに広がる身近な自然を感じられるように」との願いが込められ、企画展示を目的とした犬島「家プロジェクト」が2010年からスタート。
「F邸」「S邸」「I邸」「A邸」「C邸」の5軒のギャラリーと、「石職人の家跡」の計6施設。島の日常や自然と一体になった作品群が楽しめます。
▼まず最初に立ち寄ったのが、「S邸」
さまざまな大きさの円形レンズが並び、覗き込んでみると…。
景色が上下反転して映っています!レンズの数だけ広がる見え方。時間を忘れて、じっくりと鑑賞しました。
▼続いて、すぐそばの「A邸」へ。
建物の外と中が透明な壁で隔てられた彩色あふれるアートの中に、ポツンと椅子が。
島へ訪れた観光客の子どもたちが、楽しそうに椅子の周りを走っていました。
ふと視線を外すと、ピンク色の花びらを広げるフヨウの花が目に入りました。
おや?アートに描かれた花と重なって見えませんか?
他のアート作品もユニークでエネルギーにあふれたものばかり。
感じ方は人それぞれ。お気に入りの作品を探して、島散策を楽しんでみてください。
くつろげる古民家カフェ「Ukicafe(ウキカフェ)」
黄色いのれんがかかった、ノスタルジックな雰囲気ただようカフェ「Ukicafe(ウキカフェ)」を発見。
時刻は11時ごろ。少し早めのランチタイムへ。
自然の草花に囲まれた庭には、ハンモックやベンチが並び、ゆったりとくつろげるスペースも。
畳の間には、昭和レトロな扇風機が現役で活躍中。
まるで祖父母の家へ遊びに来たような、どこか懐かしい雰囲気の古民家。
まずは、島民のおばあちゃんたちが作ったシロップを使った、夏限定の「犬島産 赤しそソーダ」を注文。赤色が美しく、涼し気な見た目です。
ほんのりとした酸味とさわやかな風味が広がり、乾いたのどが一気に潤いました。
次は「スルメイカとキノコのトマトソースのパスタ」を。
サッパリとしたトマトソースの酸味とやわらかいスルメイカの旨みが、もっちりとしたパスタに絡んで絶妙な美味しさでした。
パスタの他にも「バナナのうきわケーキ」やジェラートなどのデザートメニューも。
「遠くから来てくれてありがとう」と笑顔がすてきな店員さんにほっこり。
休憩にするのにピッタリなアットホームなカフェでした。
巨大アート「犬島ハウスプロジェクト」
「犬島ハウスプロジェクト」として、2年の歳月をかけた巨大パブリックアート「犬島の島犬」。
おかやま山陽高校が所有の海の家(通称:ホワイトハウス)をイヌ小屋に見立てて作った作品です。
作品の表面は、陶板やアンティーク陶器やガラスなどのモザイクで作られています。
まるで今にも動きそうな巨大アート。遠くから見ても存在感を放っていました。
植物を通してコミュニティを作る「犬島 くらしの植物園」
「犬島ランドスケーププロジェクト」初の施設として、長く使われていなかったガラスハウスや周辺の土地を再生して蘇らせた「犬島 くらしの植物園」。
ただ鑑賞するだけの植物園ではなく、訪れたかた誰でも一緒に手入れもできる。
「くらし方」について共に考え、一緒に作り上げていく新しいカタチの植物園です。
ニワトリが園内の庭を歩き、時折「コケコッコー」と元気よく鳴き。
さまざまな草花が夏の暑さに負けず生き生きと咲き乱れ、おだやかな時間が流れます。
定期的にボランティアの方が訪れて手入れをしているそう。
自然とともにある、島での生活を一緒に楽しめる体験型の植物園。
豊かな自然のなかに身をおくと、今後の「くらし方」についてのヒントが見つかるかもしれません。
島からつながる未来。思いを馳せて
「犬島精錬所跡は、わたしが子どもだったころは遊び場としてにぎわっていた」と話す、島のおばあさん。
急激な経済成長の負の遺産が発するメッセージも忘れてはいけません。
今は新しく美術館として再生し、島の歴史にあらたな1ページを刻んでいます。
現代アートと美しい自然が織りなす、交流の場「犬島」。
おだやかな瀬戸内海は優しく時を紡ぎ、今日も変わらず犬島を見守っています。
持続可能な「循環型社会」を考えるキッカケに。また違う季節の風景を探しに訪れたいと思います。
犬島精錬所美術館
開館時間:9時~16時30分(最終入館:16時)
休館日:火曜日(※祝日の場合は開館、翌日が休館)
鑑賞料金:2,100円(※犬島「家プロジェクト」と共通/15歳以下無料)
公式ホームページ:犬島精錬所美術館
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